瀟洒に飾り立てたアクセサリーに、いつもより少しだけ気合を入れたメイク。
それらから解放された時の、安心とも、虚脱ともつかないあの気持ちよさ。
脱ぎ散らかしたドレスも、ばらばらの方向に脱ぎ捨てたヒールも、
どうせ後で片付けなければならない、とわかっていても、知るかそんなもん!とでも
言わんばかりにただ、ただ、目の前の安息に向かってまっしぐらに突き進む。
ロードムービーの魅力とはそういう刹那的な開放感であり、
ロードストーリーと銘打った楽園行の魅力もまた、刹那的な開放感である。
"Fuck the system"と書かれたTシャツを着た主人公・大成が抱える、茫漠とした不安と不満。
それはsystem――秩序とも、社会そのものとも呼べる者全てが抱く苛立ちに他ならない。
彼を初めとする一行は、明確な未来のヴィジョンを持った者はいない。夢がない。
恵まれた天賦の才も、百人前の特技も環境もない。どこにでも居る、本当にどこにでも居る、
うだつのあがらない集団だ。
そんな彼らが突然大金を手に入れ、命を狙われるようになり、
緩やかで居心地の良いぬるま湯の日々が一転、ドラスティックな追走劇に変わる。
その表現は見事で、文章のボリュームは決して多くないが、一気に物語に引き込まれる。
キャラクター同士の掛け合いも秀逸で、全てを話すほど
他人行儀でも、読者を置いてきぼりにするほどなあなあでもない。
絶妙な塩梅で「長い付き合いの友人なんだな」と読者に認知させる
セリフ回しの連続は、思わず笑みが零れてしまうほどだ。
基本的にロードムービー、古くは『イージーライダー』から『トゥルー・ロマンス』、
邦画なら『菊次郎の夏』に至るまで、その旅はごく少人数(2、3人)によるものだが、
この物語は6人の旅だ。その、人数が増えて個々の掘り下げができなくなる問題点は、
ゲームならではの『ルート分岐』で補っているため、どの人物にしても中身がスカスカという
事態は起こらない(だろう、と祈っている)。
最初にプレイした十一のルート。人を喰ったような物言いが気に入って選んでみたが、
物語全体が持つ疾走感に魅せられて、攻略がおろそかになった節がある。
エロシーンを観忘れてしまった、というか、途中から、エロシーンが存在することすら忘れていた。
それくらい、没入感の豊かな名作。
楽園行、迷っている方は是非。お値段以上の価値があります。
追伸(プレイした人向け)
作中で十一が言ってた夢の内容、アレ、トレインスポッティングですよね。
![トレインスポッティング [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51P9%2BiW34QL._SL160_.jpg)
久しぶりに見たいな、トレスポ。
▼それにしても。な、ぼやき
俺もこんな旅がしたかったなあ。
ゴールも見えないまま突き進んで突き進んで、それは命懸けなんだけど楽しくて楽しくて。
ああ、この旅が終わる頃には俺達どうなってんだろう。
やっぱ死ぬのかな。うわーマジかよーうーんでもまあいいや!
オラオラお前ら!コンビニ行くけど何か要るもんあるか!
みたいなね。たぶん俺だけじゃなくて、男の子はだれでも、
こういう無軌道な全速力の旅、憧れるよね。
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