2011/10/30

楽園行/十一 @犬島

例えば友人の結婚式。着慣れないドレス、履きなれないヒール。
瀟洒に飾り立てたアクセサリーに、いつもより少しだけ気合を入れたメイク。
それらから解放された時の、安心とも、虚脱ともつかないあの気持ちよさ。

脱ぎ散らかしたドレスも、ばらばらの方向に脱ぎ捨てたヒールも、
どうせ後で片付けなければならない、とわかっていても、知るかそんなもん!とでも
言わんばかりにただ、ただ、目の前の安息に向かってまっしぐらに突き進む。

ロードムービーの魅力とはそういう刹那的な開放感であり、
ロードストーリーと銘打った楽園行の魅力もまた、刹那的な開放感である。


"Fuck the system"と書かれたTシャツを着た主人公・大成が抱える、茫漠とした不安と不満。
それはsystem――秩序とも、社会そのものとも呼べる者全てが抱く苛立ちに他ならない。
彼を初めとする一行は、明確な未来のヴィジョンを持った者はいない。夢がない。
恵まれた天賦の才も、百人前の特技も環境もない。どこにでも居る、本当にどこにでも居る、
うだつのあがらない集団だ。

そんな彼らが突然大金を手に入れ、命を狙われるようになり、
緩やかで居心地の良いぬるま湯の日々が一転、ドラスティックな追走劇に変わる。
その表現は見事で、文章のボリュームは決して多くないが、一気に物語に引き込まれる。

キャラクター同士の掛け合いも秀逸で、全てを話すほど
他人行儀でも、読者を置いてきぼりにするほどなあなあでもない。
絶妙な塩梅で「長い付き合いの友人なんだな」と読者に認知させる
セリフ回しの連続は、思わず笑みが零れてしまうほどだ。

基本的にロードムービー、古くは『イージーライダー』から『トゥルー・ロマンス』、
邦画なら『菊次郎の夏』に至るまで、その旅はごく少人数(2、3人)によるものだが、
この物語は6人の旅だ。その、人数が増えて個々の掘り下げができなくなる問題点は、
ゲームならではの『ルート分岐』で補っているため、どの人物にしても中身がスカスカという
事態は起こらない(だろう、と祈っている)。

最初にプレイした十一のルート。人を喰ったような物言いが気に入って選んでみたが、
物語全体が持つ疾走感に魅せられて、攻略がおろそかになった節がある。
エロシーンを観忘れてしまった、というか、途中から、エロシーンが存在することすら忘れていた。

それくらい、没入感の豊かな名作。
楽園行、迷っている方は是非。お値段以上の価値があります。

追伸(プレイした人向け)
作中で十一が言ってた夢の内容、アレ、トレインスポッティングですよね。

トレインスポッティング [DVD]

久しぶりに見たいな、トレスポ。


▼それにしても。な、ぼやき



俺もこんな旅がしたかったなあ。
ゴールも見えないまま突き進んで突き進んで、それは命懸けなんだけど楽しくて楽しくて。

ああ、この旅が終わる頃には俺達どうなってんだろう。
やっぱ死ぬのかな。うわーマジかよーうーんでもまあいいや!
オラオラお前ら!コンビニ行くけど何か要るもんあるか!

みたいなね。たぶん俺だけじゃなくて、男の子はだれでも、
こういう無軌道な全速力の旅、憧れるよね。

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